多角的に捉え、
真に腹落ちした意思決定を導く。
町田 栄人
僕が税理士になろうと一念発起したのは20代半ばでした。人生のコマをどう進めていいかわからず、「稼げる仕事」で検索して出てきたのが税理士だったから。安直ですが、決めてからは早くて、半年で簿記一級、その後の2年で税理士試験に3科目受かりました。1社目は大手会計事務所、2社目は知り合いがやっていた個人事務所へ。パートナーとしてお客さんのために奔走し、気がつけば経営の一角を担っていました。
Colorzは3社目です。社長の大久保とは前の事務所にいた時から知り合いで、たまに仕事をもらう関係でした。ある晩、飲みの席で「M&Aがやりたいんです」とぽろっと言ったのを大久保が聞き逃さず。「起業するか?それとも自分が仕事を取ってこようか?」と、えらく真剣に相談に乗ってくれたんです。結局後日Colorzに誘われ、今に至ります。いや、前の事務所もいい職場ではありましたよ。ただ、M&Aの案件はほぼなく、仕事は繰り返しで先が見えていた。もっと予想がつかない人生に惹かれたというのは、正直あります。
予想がつかない人生を望みましたが、大変ではありました。M&Aや企業再生の案件においては、お客さんも万策尽きて頼ってこられます。僕たちは専門家でありますが、一筋縄では解決しません。ただ、どれだけメンタルが削られていても、僕たちは大変な顔をしてはいけない。僕の態度や表情が、良くも悪くもお客さんに影響を与えるからです。
この教えは、あるお客さんが僕に行動で示してくれたことでもあります。その方は、先代のつくった1億の債務超過の会社を承継していました。先代って、親でなく他人なんですよ。しかもコロナ禍もあり、補助金も出にくい事業。「困っているらしい、助けよう」くらいで企業再生を引き受けたものの、正直うまくいくと思えませんでした。でもその方は「俺、いけると思うんですよ」と、ずっと明るくて。空元気でもなく、本気で「いける」と思って頑張っているんです。ああ、すごいなって思いました。僕もどんどん本気になって、一緒に財務戦略を考えて、金融機関を回りました。『教科書通り』『王道・定石』そうしたものをいかに疑い、別角度から発想するか。二人でもがくこと5年、気づけば債務超過は3000万円を切るまで減っていました。
隣に立つ人の本気に、人は感化される。身をもって知ったからこそ、僕も常に「経営者の隣に立つに値する人間か」を自分に問い直しています。本気か。できると信じて前を向いているか。僕のあり方から、経営者も、経営も、本当に変わっていきます。
大久保から気づきをもらったこともあります。ある土曜日、顧客企業の社長から「相談したいことがあるから、来週会えますか?」と連絡が来たので、月曜にアポを入れました。ところがそのやり取りを見ていた大久保から連絡が来て、「来週じゃ間に合わない内容かもしれない。明日なんとかならないのか?」と。
すぐにアポを取り直し、日曜日に会いました。結論、早めて正解でした。と同時に、大久保に言われるまで、「自分が思っている以上に相手は深刻な状況かもしれない」「お客さんは“今”助けを求めている」と想像する力が足りなかったことを思い知らされました。決して闇雲に、なんでも速くすればいいわけではないのです。が、相手の困り感を察知してすぐ動く、その価値はいかほどかと以降胸に刻みました。
本気で臨む分、僕もお客さんに言いたいことは言います。意思決定の主体はあくまで社長。自分で考えることを放棄し、僕への依存が始まったら経営はうまくいきません。「もし僕が悪い奴だったらどうします?騙せてしまいますよ?会社を潰せてしまいますよ?」とまで言ったこともあります。駆け引きして、揺さぶって、相手からより強い本気を引き出していく。僕は僕で、何度も自分を顧みながら、最善を探っていく。その結果として企業の成長を加速させられるなら、ただただ本望です。
ここまで、お客さん、お客さんと呼称してきましたが、本音では「いわゆるお客さん」だとは思っていません。どちらかというと、僕自身がその企業の社員であるかのような気持ちで向き合っています。自社の動向は気になりますから、当たり前のように深く知ろうとするし、現場の人の愚痴も聞く。経営層とだけ向き合っていたときとは、全く違う現実が見えてくることもよくあります。その全てを社長が知る必要はなくとも、財務上の課題につながると思えば、機を見計らって議論の俎上に載せています。結局のところ、財務の数字は社員の行動と想いの集積であり、社員は社長の合わせ鏡。つまり数字を改善しようと思えばまず社長が変わらないといけないのです。そこを理解して現実を直視し、本気で変わろうとする社長を僕らは絶対一人にしない。隣に立って共に闘うのがColorzのあり方です。
最近は、Colorzの価値観を共有しながら働ける仲間を増やすことにも力を入れています。これが思っている以上に難しい。先ほどの「日曜日に会った」エピソードも、人に強要したら問題になりかねませんしね。でも、無意識にそう行動してしまうレベルに達して初めて、お客さんを本当の意味で守ることができるし、自分の人生も楽しくなる、と僕は信じているんです。その感覚を伝えるのが本当に難しくて、でもだからこそ、良いのかもしれません。簡単にできて、先が見えると、きっと僕は飽きちゃいますから。
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